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ニコラス・ブリンコウ「アシッド・カジュアルズ」文春文庫 玉木亨訳
 「ドラッグとダンスミュージック渦巻くマンチェスターの暗黒街」「ポップなビートにのせてブリット・ノワールの極北を疾駆」個人的には好みから完全に外れる説明だが、それはあくまでも説明文が好みから外れるのであって、暗黒街・犯罪小説の内容そのものは嫌いではない。
 英国の犯罪小説でありながら不思議な陽気さに包まれており、しかし全体を覆う色調が灰色の雨空であるから、メインテーマのドラッグをうまく投影させることに成功しているようだ。
 ただし主人公はオカマなので注意が必要であり、知らずにオカマの濡場を読まされるのが嫌ならば、この本に近付かないほうが良い。
 ブリンコウは既に三冊訳出されているが、原書の刊行順は「アシッド・カジュアルズ」「ラリパッパ・レストラン」「マンチェスター・フラッシュバック」である。
 原題はNicholas Blincoe「ACID CASUALS」

ジェイムズ・ヘリオット「毎日が奇跡 上下」集英社文庫 大熊榮訳
 イタリア人の名前をルイーギとしてあり、これには皆から突込が入るものと思われる。
 15章がかなり沁みて、つい涙を溢してしまった。どたばたの中たまにしんみりした雰囲気のものが挟み込まれているから効果の絶大なること限りない。
 翻訳は計九作あり、いずれも外れなしの評価を下せる。巻末に著作リストがあるので有難い。
 本国で映像化されたものを、字幕付けてどこか出せ。
 原題はJames Herriot 「THE LORD GOD MADE THEM ALL」

ニコラス・ブリンコウ「ラリパッパ・レストラン」文春文庫 玉木享訳
 そもそもブリンコウを読もうと決めたきっかけは、このいかれた邦題にある。題名を見ただけで腹が攀じ切れるほど笑ったものだから手が伸びたのだ。原題からかけ離れているが、このような訳題を持ってくるのは余程の自信があるのか単なるやけくそなのか、内容紹介にどたばたを感じさせる雰囲気があったから惹かれた。
 薬と銃と暴力と淫猥と退廃、かつて一時代を築いたソーホー風俗を活写している。
 これは読み手を選ぶものだから薦めはしないが、壊れ具合は笑える。読み終えて後、「ラリパッパ」は確かに相応しい単語であると納得した。
 原題はNicholas Blincoe 「JELLO SALOD」

バチュラー八重子「若きウタリに」岩波現代文庫
 アイヌ関係のものを少しづつ集めているが、これは毛色が違っている。なにしろアイヌの魂を短歌に詠み込んだ女流歌人の歌集という貴重なものだ。
 去年復刻されたが版元が岩波ということもあり新刊でさえ入手は困難であった。
 虐げられし同胞への想いが圧縮され、大和言葉の形式にアイヌ単語を融合させつつ哀哭を結晶させている。八重子がイレスサポに成り得たかどうか、それを判断するにはまだ早い。
 「若きウタリに」の章で精神を鼓舞させよう目的の歌が多いが、これは誰に対しても心を震わせるものだ。道を失した折に必要となるだろう。
 また解説が充実しており、参考文献への言及も少なくない。この先何度も読み返すことになるだろう。何度も参照することになるだろう。価値は計り知れない。
 バチュラー八重子  1884-1962有珠生まれ
 アイヌ民族出身のキリスト教伝道者 歌人
 23歳英国国教会司祭バチュラーの養女となる

玉川一郎「私の冗談事典」青蛙房
 小噺のような、コラムのような、艶笑と駄洒落のすし詰めであり、覚えのある話も多い。多くはこれが元ネタであることを知ってしまった。
 潮文社から新書として出た様子もあるが、いずれも絶版らしい。だから遠慮なく使われてしまっているのか。女権論者が素面で読むと引き裂いてしまうだろう。

ウィンスロー・ファラル「ヒット・エコノミー戦略」レゾナンス 博報堂複雑系研究グループ訳
 複雑系をビジネスに応用し、複雑系からビジネスを読み解き、ビジネスから複雑系を読み解く。
 ブームを起こす為のハウツーのようでもあり、新しい経済学の入門書のようでもある。原書刊行当時のアメリカ文化最前線を複雑系で解き明かそうとしてみたりする。基本的にビジネス寄りなので一般向けではないように思えるが、読んでおいて損はない。事実上参照が不可能であろうとも引用群が素晴らしいのだ。
 著者が巻き込まれる「たまごっち騒動」が少し笑えた。
 原題はFarrell Winslow「HOW HITS HAPPEN」

金田一京介著 藤本英夫編「ユーカラの人々」平凡社ライブラリー
 アイヌ関連の短文集を編み直したもので、いくつか同じ挿話が出てくるが、しかしそれは増幅効果があるので心地よく読める。アイヌへの入口に相応しいと思えるものだ。

アンブロウズ・ビアス「完訳 悪魔の寓話」創土社 奥田俊介訳
 昨今の情勢ならばこちらも続けて再版されるのではと考えていたが気配がなく、少々高かったのだが値段に見合うものだ。
 厳い風刺を閉じ込めた極短編は寓話と呼ぶに相応しい展開力を持っている。イソップを更に捻じ曲げたものを含めて寓話が三百余りと最後には辞典から持ってきたものも収録されている。
 辞典への入門書と位置付けられており、確かにこちらの方が警句より長い分理解し易いかもしれない。これらの寓話を削りに削って現れた本質が警句となり、警句を肉付けして直接の言葉を消したものが寓話となり、絡み合い昇華してゆく先にあるのは冷徹な現実に浴びせる嘲笑と愚かさに彩られた時代への軽侮だ。
 これで満足しないのは過大な期待を押し付け過ぎているからであり、翻訳を通して抜け落ちた綾を嘆くよりもまずその視座を得んとすることが必要である。
 選集もあるがやはり物足りない。全集が欲しい。

土屋賢二「簡単には断れない」文芸春秋
 初期の破茶滅茶ぶりが減り、安定してきた反面で物足りなくなったというのは我侭なのだろうか。
 二重三重に捻りを加えられ噛み砕くのに体力を要する一方で、それが狂笑を誘った頃に比べて「普通の笑える話」になりつつある。それを求めるならば土屋賢二を読む必要はないのだ。哲学方面から繰り出される魔球に翻弄されたくて土屋賢二を読む。他の作家と比べて水準は未だ高いが、土屋賢二初期に比べて変化が明瞭だ。
 拡散して希釈された笑いは欲しくない。変化球ならまだ打てる。どうしても打ち返すことの出来ない魔球を待ってこの先も読み続ける。

山本夏彦「かいつまんで言う」中公文庫
 いささか古いながらも新鮮さを失わず現実の姿そのまま今でも完全に通用する言説は、いつでも同じことを繰り返しているだけであることを示しており、時代を超越したものだと感動するより先に成長しない我々を反省しなければならないものだ。

山本夏彦「『室内』40年」文春文庫
 雑誌「室内」に纏わる回顧譚で社員からのインタビュー形式であるが、実際のところは御隠居さんの語る昔話と為になる教養話で、聞き手と話し手の年齢差からくる一般常識の乖離が笑いを生む。
 岩波を語るふりして出版史を語ったように、室内を語るふりして発展と誤魔化されている建築史の退行を語る。この人は断じて御山の大将などではなく、良識を強く貫くために孤高を持さねばならなかった。単なる老人の「近頃の若い者は」とは違い確固たる信念に基づく万象と誰もが目を逸らす現実を抉った。
 歴史教科書問題で選んだ立場は短い目で見て失地であったが、長い目で見るとその主張はいささかも矛盾せず揺るぎないものであることが知れる。
 これほど普通を突っ張る為に強く生きる人はこの先出るだろうか。

ディック・フランシス「女王陛下の騎手」ハヤカワ文庫 菊池光訳
 騎手を引退後最初に書かれたものであるが、この語り口の面白さはフランシスの印象を根底から覆す。
 フランシスの中でも抜群に読み易く面白いのだが、自伝であることから他のミステリ群への入口となり得るかどうか微妙なところであり、フランシス狂に仕立て上げようとする相手に対し最初に渡すべきかどうかは判断に迷う。
 しかし障害競馬の世界ながらも一連のミステリよりも数段どたばた色が強くて笑える内容であり、「笑いが濃くてフランシスの印象が壊れるから」ならば正しい理由と言えるが、「自伝だから」と敬遠するのは理由が間違っている。
 原題はDick Francis「THE SPORT OF QUEENS」補遺十四章のある版を勧める。

北上次郎「感情の法則」早川書房
 書籍よりも個人的な回顧に重石が置かれているので常と比べて勝手が違う。当然若輩者でも堪能出来るが、その深い襞まで掬うには齢を重ねる必要があるのだろう。
 この雰囲気は秋の夜長に相応しい。これを読むことで自らの成熟度を測りつつ、また一日が過ぎてゆく。

ニコラス・ブリンコウ「マンチェスター・フラッシュバック」 文春文庫 玉木亨訳
 原作刊行順として後半は意地になって読んだが、単純に疲れた。次作は毛色が大きく変わるそうだから素通りはしないだろうが多少の躊躇はするかもしれない。
 原題はNicholas Blincoe「Manchester Slingback」



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