- ダグラス・ケネディ「どんづまり」講談社文庫 玉木亨訳
- 新潮から出た「仕事くれ。」が笑えるブラックで待望していた。この講談社文庫から出た「どんづまり」は旅行作家であったダグラス・ケネディの初の小説となる。単にオーストラリアを旅したかっただけなのに、色々あって悪夢のようなドタバタが展開する。後半の失速が悔しいが十分楽しめる。小説以前に出した旅行記も読んでみたいものだ。
原題は「THE DEAD HEART」 ハリウッドで「WELCOME TO WOOP WOOP(邦題:ウープ・ウープ)」として映画化された。日本では劇場未公開だがビデオで出ているらしい。これは映画の方が面白いタイプかも知れない。 - 笹間良彦「図説日本拷問刑罰史」柏書房
- このあたりは似たタイトルが多く、確か映画のタイトルでも見た記憶がある。図説とあるとおり、それぞれの拷問のイラストが付いていて、しかしそれは意図的にかどうか上手いと言い切ることの出来ない絵なので無残な雰囲気はない。文章も淡々と並べられていて、いつどこで行われたかの記録を集めた感じの本である。近世以前の拷問を集めたものであるから、この百年に開発されたり発見された拷問までは網羅していないが、それでも残酷さは伝わってくる。「泣き叫ぶと打ち役は少し手加減し、黙って堪えるとこれでもかと打ちすえる」このくだり、拷問に限った言葉ではないことに気付けるだろうか。
- ロバート・ゴダード「リオノーラの肖像」文春文庫 加地美和子訳
- 凄い。転がし方のパターンは掴んだと思って裏の裏の裏を予想していて、それが当たったと思ったら更に裏があった。当初ラストはこうなるだろうと考えていたところに結局は着陸したのだが、途中で完全に違う方へ誘導されてしまい、見切ったところへ着地した。力業にも程がある。ゴダードの名前は知っていたのに何故か読む気にならなかったが、何となく手にしてやられてしまった。
イギリス小説特有のほろ苦い味わいかと思えば全然違って、分厚い重層構造の襞を迷わされながらミステリを堪能した。登場人物が入り組んでいるので、間を置いて読むと把握が難しくなる。ある程度纏まった時間を取って一気に読むとよい。しかし決して流し読みせずに、時系列と人物相関図を意識しながらでないとこの迫力は伝わらない。作中に引用されているスティーヴィ・スミスの詩、とあるは映画はこれを意識しているのではないかと思ったり思わなかったり。
原題は「In Pale Battalions」 - ウェンディー・ノースカット「ダーウィン賞!究極におろかな人たちが人類を進化させる」講談社 橋本恵訳
- これは間抜けな死に方をした馬鹿を紹介するエピソード集だが、中でも飛び抜けた阿呆は「間抜けな遺伝子を次世代に残すことなく死んだことを多とし、人類の進化に貢献した功績をダーウィン賞として表する」という遊びなのだが、不謹慎なニュースを真面目な遊びとして笑い飛ばす内容は読み始めたら止まらなくなる。
先込銃の中をライターの灯で覗こうとして自分の頭を吹き飛ばすような奴の遺伝子は確かに残したくはない。そういった話が確証あるニュースから噂・投稿・都市伝説などを含めて集められており、興味深い。 - 古川薫「ザビエルの謎」文春文庫
- 歴史ルポタージュと呼べばよいのか、ザビエルの軌跡を辿る旅の話で、他に四篇収録されいる。表題作の「ザビエルの謎」は、今まで知らなかったザビエル像に光を当てている。布教の為に来たわけだからある程度のきな臭さは感じていても、それを確認する術が難しい。現在、ザビエルを初めとする宣教師が当時本国に送った書簡は見ることが出来ないらしい。その理由は植民地政策や布教に関する内容が余りにも赤裸々で危険であるからという。
- 赤江瀑「八雲が殺した」文春文庫
- 追想。夢魔。絢爛。陵煌。耽美。幻想。睡寂。昇華。第12回鏡花賞。短編集。八篇。
赤江瀑の作品にはそれぞれの世界が用意されていて、その世界と普遍のテーマを見事に融合させているところが人を惹きつけるのだ。