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佐々木譲「武揚伝(上・下)」中央公論新社 
 泣いてしもた。
 大政奉還と明治維新の時代、箱館は五稜郭に立て篭もった幕府の残党、榎本武揚の名をどこかで聞いた事があると思う。手前は精々しぶといと言うか、骨があると言うか、諦めが悪いと言うか、そのような人間がごろごろ居た時代なのだろうと思うだけであったが、全然違った。まず榎本武揚という人は、オランダに留学し、蘭語仏語英語に通じ、海軍軍人としての素養があり、国際法などにも通じた極めて優れた人材であったこと、そして五稜郭に篭った理由は「諦めが悪い」ではなく「徳川家の領地没収で放り出された者、維新で賊軍となり行場を失った者の新天地として、蝦夷に共和国を打ち立てる」ことが目的であったこと、そして選挙まで実施しているというから半端ではない。
 北海道の自治に関しては萬晩報にて関連した考察が色々あるから各自参照の事として、この「武揚伝」は佐々木譲の北海道テーマ代表傑作である「五稜郭残党伝」へ繋がる立場にあるのだが、あの傑作の残党伝があっさり外伝として霞んでしまった。物量的な勢いもあるだろうが、それ故丹念に書き込まれた登場人物の性格描写、挿話の再構築から始まり次第に動き出す物語と武揚周辺人々が織り成す壮大な幕末絵巻を、ただ呼吸も忘れて読み続けた。
 拡げてから折り畳むのでなく、拡げてから織り上げる終盤の勢いは目の裏が焼けずにおれない。しゃくりあげながら読む本などいつ以来だったろう。
 竜馬は完全に脇役以下として、噂程度にしか出てこない。崩れゆく幕府の中で新生日本を目指した数多の侍達を、あの時代に留学して卓越した国際感覚を身に付けた男を中心とした夢の軌跡を、時に皮肉な会話で彩りながら、武揚の幼年時代から五稜郭開城までが鮮やかに描かれている。
 扱われているテーマが幅拡く、佐々木譲の代表作品として、「ベルリン飛行指令」より上に置くかどうかに迷いながら、一連の蝦夷物を全て繋ぐ回路の要としてかつ蝦夷時代物の代表作として、更に新鮮な幕末物として、これは自信を持ってお薦めする。読め。

筒井康隆「ヘル」文藝春秋 
 「パプリカ」と「驚愕の曠野」の間に位置する。「驚愕の曠野」を読んだことがなければついて行けない世界でもある。
 老人と逃亡するヤクザと疎開とその他とあれこれのキーワードを繋ぐ立場にもあり、いきなりこれだけを読むと当惑しても仕方がない。
 読み手の置いて行かれまいとする追走が悉く見当違いの方角であることを何度も何度も確認されられてしまう。ラストの解釈は読み手の心象を炙り出す効果があるから他人と一致することは稀であろうし、また無理に一致させる必要はない。むしろ相違を論じることによって読み手の頭に新しい地平を切り開くことが出来るならば、作品を楽しむより以上の収穫があったことになる。

山本夏彦「恋に似たもの」文春文庫 
 タイトルに惑わされてはいけない。ただし入手は困難であろうから迂闊な人は少ないと願う。
 女が女だけに判る楽しみの詰まっている本を、男に教えたくないのと同様の男の本である。猥褻なことは少しも書かれていないが、間違って女権論者が読むと泡を吹いてぶっ倒れる可能性がある。勿論僅かながら熱狂的な女性ファンもいるわけで、男女の括りで分類すること自体が間違っているのだが、それでも男の立場で読むと「女がこれを読むと厳しかろう」と思うのだ。また銀行員、保険屋、建築家はこのタイトルを見ても素通りした方がよい。これを読んで喝采するか泡を吹くかはその人の属性にもよるが、喝采する人もまた虚仮にされているからあとで気付いて泡を吹く。
 「人は理解したくないことを理解しない」どこに出しても何語に訳しても通用する俚諺ではないか。読みたい人だけ読めばいい。

ウォーレン・マーフィ「レッドムーンの秘密」扶桑社ミステリー文庫 本戸淳子訳 
 マーフィにはトレースシリーズから入ったから戸惑うのだが、がっちり構成された上物のミステリだ。内容紹介には何故か伝奇サスペンスとあるが、これが伝奇ならばカッスラーは全てSFになってしまうので、ミステリに分類しておくほうがよいかと思われる。
 キーワードはナチス・絵画・石油。憎まれ口と与太の応酬はほとんどなく、至極真面目に展開している。

ジャン・ハロルド・ブルンヴァン「消えたヒッチハイカー 都市の想像上のアメリカ」新宿書房 大月隆寛+菅谷裕子+重信幸彦訳 
 消えるヒッチハイカーとはアメリカからヒッチハイカーそのものが次第に姿を消していったことに関連する伝説か何かだろうと考えて読んだら、何度も何度も聞いたことがある話だった。日本ではこの話がタクシー運転手として、「乗せた客が何時の間にか消えていて後部座席が水のようなものでぐっしょり濡れていた」ということになるわけだが、さすが論理の国アメリカ、ヒッチハイカーが消える動機をきっちり説明するあたりが感心する。なんでも消えた場所が丁度その人が死んだ場所であったり、その日が誕生日であったりするわけで、これは単純に「墓場の横を通ってしばらくしたら消えていた」という一律横並びな日本の話もたまにはこの展開をしてもよいのではないかと思う。

スティーヴン・ハンター「最も危険な場所 上下」扶桑社ミステリー文庫 公手成幸訳 
 全ての作品を繋げるように、そして間を埋めてゆくように書かれる作品群は、時系列前後の矛盾を乗り越えてひとつの大きな大河小説として進んでゆく。それぞれの作品が必ずどこかで繋がっているので、新作を読めば既刊をもう一度引っ張り出す羽目になる罪作りな作家であり、もう一度読んでも面白いから癖になる。内容の時代設定が発表順とは完全に違ってばらばらなのに、どこかで繋がっているから火の鳥感覚が蘇るのだ。魅力は「銃を使った立ち回り」これに尽きる。
原題は「PALE HORSE COMING」STEPHEN HUNTER
ステファンじゃないのかという突っ込みはやめましょう。

D・E・ウェストレイク「鉤」文春文庫 木村二郎訳 
 「ニューヨーク編集者物語」とは完全に雰囲気が違い、どたばた色はなくて心理葛藤を描いている。「君の小説を私の名義で出版しよう。報酬は55万ドルづつに折半。ただし妻を殺してくれ」殺人そのものよりもその後の心の動きを丹念に追い、やがて解釈の分かれる終局へ向かう。文春文庫では「斧」に続く犯罪小説で、これはミステリと言うよりサスペンスと呼びたい。
 アメリカの出版業界を舞台にしており、別名義での再出発法など内輪ネタ暴露ネタが多数あるようだが具体的に特定出来ないのがもどかしい。
原題は「THE HOOK」 Donald E. Westlake

米村圭伍「面影小町伝」新潮文庫 
 刊行されていたことを知らなかったのは不覚で、見た瞬間中を確かめもせず買った。これはシリーズ三部作の完結編で、え。完結。本当ですか。
 どたばた時代小説の秀作として「風流冷飯伝」は喝采をもって迎えられ、続く「退屈姫君伝」もまた大いに受けた。今作は錦絵双花伝を改題したもので、改題する理由は読み終えると納得する。どたばた色は少し薄められて伝奇小説の雰囲気に近付いているようだが、許容範囲なので構わない。
 まず第一作の「風流冷飯伝」を読んでみて、それで引き擦り込まれるかどうかだ。出来ることなら順番に読んだ方が奥行きが増すことを伝えておく。



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