「ねえねえ、聞いた話なんだけど・・・」
「この前聞いた話だと思う」
- 聞いた話 03/02/12
聞いた話だ。
あのね、聞いた話なんだけどね、聞いた話聞いた話。聞いた話よ?彼女の部屋の鍵を貰って喜んでいた男がいたわけ。いつもは行く前に電話して行くわけよ。でその日もあらかじめ電話しておいたのね。でもたまたま用事が早く済んでワインを買って行こうって思ったんだってさ。でいろいろワインを選んでみたけどどうしても約束の時間まで余るのよ。そこで一度電話入れてさ、「早く行けるから」って言わないと駄目よね。女の子の部屋行く時に突然訪ねて行くのはルール違反だと思うのよ。違う?でね、彼は突然行って驚かせてみようと考えちゃったらしいのね。馬鹿よね。でもそれが面白いのよ。買ったワイン持ってね、突然行ったらどんな顔するのかいろいろ想像してたんだってさ。まあその気持ちは分かるけどね。それで彼女の家に着いたわけ。予定より三時間前に。そう三時間前。微妙でしょ。そこでさ、ちゃんとインターホン鳴らさなきゃ駄目よね。これも駄目よね。つい何してるのか見たくていたずら心でそぉーと合鍵使って入ってみたって言うわけ。もしかして寝てるかも。寝てたら静かにワインの準備をして彼女の寝顔を見ながら起きるのを待とうなんて考えちゃったんだって。でね。そぉーっと玄関の鍵を開けて短い廊下の付当たりのワンルームの扉の向こうには灯りがついててね、ああ起きてるんだちょっと残念だけど、まあそれでも驚かせてみようってまたそぉーっとその扉開けようとしたわけ。そこでもね、男らしくガチャって開ければいいのにね。一応何してるのか覗いてみたくなったのね。馬鹿よね。で、少しだけ開けてみるとね、彼女泣いていたんだって。なんか机に両肘ついて両手で顔を覆って。驚かせようとしたのに反対に驚くよね。こっそり見たら泣いていたんだから。彼はさ、もう何がなんだかわかんなくなって凍っちゃったんだって。何か悪いことしたか?まだ付き合いはじめて二ケ月なのに。鍵貰ったの二週間前なのに。でも今日は予定より早く来たわけだから。じゃあどうして泣いているのか。わけわかんないよね。とにかくパニクったまましばらく彼女を見てたんだって。そしたらね、よく見るとね、なんかキラッて光るものを持ってたんだって彼女が。ううん何かわかんないんだけどね。それでしゃくりあげながら泣いているからますます焦ったんだって。それでね、もう一歩も動けなくなっちゃったのね。見てはいけないものを見ちゃったのね。もうどうしていいかわからないからそのまま見てたらね、なんか様子がおかしいわけ。ううん泣いているんだけど。なんかおかしいんだって。でね。よく見るとね、鏡に向かって泣いているのね。どうして鏡なのかもうわけがわかんなくなってる彼には理解出来ないわけ。かろうじて思い付いたのは「俺と別れる為に泣く練習しているのか?」だって。でもなんだか様子がおかしいのね。さっきも言ったけどね。でね、彼は全身冷汗まみれでね、立ち尽くしたまま彼女を見てたわけ。そしたらね、彼女がね、突然ね、くしゃみしたの。そこで彼は彼女が何してるのかようやくわかったんだって。
「毛抜きで鼻毛を抜いている」
パカよね。どっちも。彼氏が来る前に毛抜きで鼻毛を抜く女。それ見て冷汗かく男。鼻毛抜いていたからね、鏡があるし、光るものは毛抜きだし、しゃくりあげて泣いていたのは実は、抜いた瞬間の「痛っ」「ん゛っ」だったのよ。女なら鼻毛切りはさみ使えばいいんだけどね。でもはさみだとね、切り株状になって太くなってくるから抜く子って結構多いよ。それを見られる子はあまりいないけどね。でね、安心したのはいいんだけど、今そこで入っていって驚かせようとするのはとても気の毒に思ったわけ、彼は。そりゃ驚くけどさ、鼻毛抜いてる瞬間だから。彼は入った時とおなじようにそぉーと出て行ったのね。そぉーと玄関まで戻って靴持って玄関の鍵かけて。外で靴履き直してね。で、ようやくインターホンならして「おーい俺。早く来れた」って言いながら玄関の鍵を開ける振りしてね、わざと手間どって二、三回がちゃがちゃやって彼女が立ち直る時間を与えたんだって。で、もういいかなと思ってわざと靴脱ぐのも時間かけてね、「用事がさあ、早く済んでさあ」とか言いながら出来るだけゆっくり彼女が出てくるのを待ってたわけ。で、廊下の奥のドア開いて彼女の顔見たらやっぱりまだ涙目なのね。たった今まで鼻毛抜いてたからね。それでも気付かない振りしたらいいのにね、つい言っちゃったわけ。「あれ?泣いてたの?」そしたら彼女がね、「うん。p君のこと考えて少し切なかった」とか言いながら飛びついてくるわけよ。鼻毛抜いてたくせにって吹き出しそうになる顔を見られなくて助かったって彼は言ってたけどね。そしたら彼女がね、「どうしてこんなに汗かいてるの?」さっきの冷汗まだ引いてないのね。そこで彼は勇気を出して言ったのよ。「R子に早く会いたくて走ってきたから」こんな馬鹿見たことないぐらい馬鹿よね。で結局その日はずっと彼女の鼻毛が気になってどうしてもくじけそうになるのをこらえて無理矢理盛り上がったんだって。彼女も馬鹿だけど彼氏も馬鹿よね。でもさ、恋愛ってさ、そういうものだと思わない?
聞いた話だ。
※「聞いた話」、方向性が決まってしまったシリーズ最初のもの。まさか続くとは思わずに適当なタイトルにしておいたところ、好評につき、投遣なタイトルのままシリーズ化。その後飽きる。また口の軽い奴と言われるは本意ではない。
- 聞いた話・開けてはいけない扉 03/02/16
聞いた話だ。
その「聞いた話」に良く似た、開けてはいけない扉を開けてしまったもう一人の男の話を。
状況にあっては付き合いはじめてほぼ一ヶ月。キスまでの仲。彼女の家に行くのは四回目。今回で本丸を陥落させようと考えていた。
彼女はややおっとりした性格で男に免疫がない感じ。一緒にいてどぎどきするより安心出来るタイプ。手料理をつつき、飲めないと言い張るお酒をやや強引に飲ませてさあ今こそ。
そこで彼女は拒否しなかったので彼はいけると踏んでキスを重ねてシャツのボタンを外そうした瞬間突き飛ばされる。「ごめん・・・ちょっと待って・・・」そう言って彼女はトイレに駆け込んだ。この時彼は飲ませ過ぎたか、と思い部屋を片付けたり玄関や窓の鍵がおりているのを確認したりCDを選んでランダムエンドレスモードに設定したりそれなりに期待しながらも少し心配していた。なかなか出てこないので、そんなにお酒弱かったのか。ワインをグラスに三杯だけのはずだが。しかし手料理と言っても水炊きは手料理には入らない気がするが。
そんなこんなですっかり待ちくたびれて、残っていた酒も飲んでしまい、まだ出てこないので本格的に心配し始めた。そんなに気分が悪いなら今日は遠慮しておこうか。しかしここがチャンスでもあるし。しかし遅い。とても静かだ。普通は激しく吐く音が聞こえてくるが。聞かれたくなければトイレの水を流してその音に紛れて吐くだろうが水を流す音も聞こえない。もしかしてトイレの中で倒れているんじゃないか。
ここで彼は開けてはいけない扉に近付く。耳を澄ませてみるが何も聞こえない。いよいよ心配になって「ねえ大丈夫?」と言いながら開けてみると。
彼女は上半身ブラジャーだけになって左手を上に伸ばし、右手の毛抜きで脇毛を抜いていた。
開けた瞬間彼は即時に状況を正しく読み取ったが、彼女とぴったり目があって凍りつく。何か言わなければいけない。しばらく時間が溶けた飴のようにねっとり流れるのを感じながらようやくのことで苦し紛れに、開けてはいけない扉を開けた彼が脇毛を抜いていた彼女に発した言葉。
「・・・あ・・・手伝おうか?」
同じく左手を上に伸ばしたまま固まっていた彼女がそれに返した言葉。
「・・・ううん・・・大丈夫・・・もうすぐ終わる・・・」
彼は「そう」といってさり気なく閉めたそうだ。開けてはいけない扉を開けてしまい見てはいけないものを見てしまった男がここにもいたわけだ。
その後出てきた彼女と如何なる会話が交わされたのかを尋ねる意味で「で、その後は?」と聞いたら彼はこう答えた。
「うん。今は僕のお嫁さん」
聞いた話だ。
- 聞いた話・浮気の罰 03/04/19・20
聞いた話だ。
浮気防止と言えば一度彼女にやられたことがあるんですよ。というか浮気がばれた罰という感じで。彼女の友達が携帯で写真撮ってそれを彼女に送ったらしいんですね。でも何も言ってこなかったからこっちはばれてないと思っているわけですよ。そんな写真まさか撮られてたなんて知らないですからね。
それでですよ、まあ、彼女とホテルでやってこっちは眠ったときのことですよ。やられましたね。眠っている間に毛を勝手に処理されてました。
起きてですよ、彼女がいなくてどこいったかなと捜しながらトイレに行ったら毛がないんですよ。あせりますよ。「ぬわ」という感じ。オシッコしに来たのにするの忘れてしばらく眺めてましたね。小学生のように爽やかに見えますが、でもよく見ると先っちょは小学生どころではありませんから無茶苦茶変ですよ。
で部屋に戻ると机に書き置きがあって「浮気の罰」と書いてありまして。ばれてるなんて知りませんからね、こっちは。とりあえず電話しようとして携帯見たらメールの着信があるんですよ。彼女から。それで画像開いてみたら証拠写真なんですよね。相手の体の向こうに腕をまわして胸のあたりをつんつんしている写真。指がめり込んでますからね、言訳は難しいですね。あんな写真誰がいつ撮ったんだか。
とりあえず電話は後回しにしてまず落ち着く為に一服ですよ。でどうしても気になって目が下にいくんですよ。寝てる間にこんなことされるなんてって。異常に恥ずかしいですよ。毛ないんですよ。ないとは言っても数ミリ残ってますけどね。剃ったわけじゃないみたいです。多分鋏でしょうね。丁寧に剃ってあればもう少しマシだったかもですよ。こう、左の方が短めなんです。二・三ミリ。それで右の方は大体五ミリぐらいかそれ以上。
明らかに途中で飽きてますよね。
なんか玉の毛は中途半端に残ってるし。けつのほうは多分寝てる体勢からして無理だったんでしょうね。そのままですよ。わかりますか。すごく情けないですよ。
それで電話はさすがにつらくてメールで「浮気はごめんなさい。でも毛はやり過ぎ」って打ったら直ぐに返事が来ましたね。待機してたんでしょうね。「浮気の罰!浮気防止!」って一分程で返ってきましたから。そこでメールで喧嘩ですよ。最初は「ごめん、でもやりすぎ」調だったのがだんだん「ふざけるな」調になりまして。最後の方で「(浮気)出来るならやってみな」と来たから「おうやるやる」みたいな。
とりあえずホテル出る前に一回自分でやってみたんですが異常に早かったですね。何なんですかね。まあ、恥ずかしいから弾みで「浮気する」とは言ってみてもやっぱりね。彼女ですからね。実際会って「さっきはああ言ったけどもう浮気なんてしない」と言えば許してくれるんじゃないかと思ったんでそのまま彼女の家に行ったんですよ。謝りに。甘かったですよ。本気で怒ってましたよ。部屋に入れてくれないから玄関先の俺と部屋の中の彼女でメールの打ち合いですよ。
「とりあえず入れて」「とりあえず反省して」「反省するから入れて」「反省するなら帰ってして」不毛ですよ。まあここでまた浮気したらまずいなというのはわかりますしね。引いたら本気じゃないと思われますからね。メール打ちながら帰って、その後一週間はメールだけのやりとりでした。一週間ぐらいでは全然伸びないんですね。なんかパンツ穿く時にくすぐったかったですね。
こういうことは今でこそ言えますけどね。当初はオシッコも個室でするぐらい恥ずかしかったですね。胸に指めり込ませていた写真の相手は「彼女にばれたから」ってすぐにこっちから連絡絶ちましたから会うこともなくて無毛が見られることはなかったんですけどね。
だんだん腹が立ってくるんですよ。全然許してくれないし。でもなんか可愛い奴だと思うと笑えてくるんですよ。鍋で襲撃されるよりましですから。しかし鍋女って多くないですか?一本手の鍋。持ちやすくて程よく軽くて鍋底が広いから当たりやすくてしかも痛い。「モグラ叩きみたいだった」ってあとでけらけら笑う女もかなり恐いですから。
で、よく考えてみると彼女「別れる」とは一回も言ってないんですよ。ひたすら「罰!」「反省」ばっかりで。まあ大丈夫だろうと思ったら急にむらむらと来まして。
男が「むらむら」と言うのは女にはよくわからないらしいですね。「ざわつく感じ」とか。なんかこう、「精子が玉袋の中で走り回ってる感じ」とか。走り回ってるのを実際感じるなんて無理ですけどそんな感覚ですよね。「玉袋の中で炭酸がしゅわしゅわしてる感じ」ってのが一番わかりやすいかもしれませんね。そう思いませんか。
炭酸しゅわしゅわで、なんとなく「無毛の今だからこそ浮気をしなければ!」という使命感が沸き起こってきたんですよ。「今しかない!」とかね。かなり馬鹿ですけどね。そう思い込んでしまったんですよ。
でも相手が直ぐには見つからないんですよ。「彼女にばれた」と言った子に連絡してみたら「彼氏が出来た」と言うし。「今毛がないんだけど、どう?」とはとても言えなくて。多分捜せばそういう趣味の子がいるかもと考えてみても心当たりなんかないですからね。そうこうしてるうちに「普通に生え揃ってしまったら普通の浮気しか出来ない」とか思い始めて。急に伸びるなんてことはない筈なんですが、焦ってたんですかね。それと無毛を誰かに見られたいと思い始めたから「これはやばい。早く決着つけなければ」とか。浮気して決着つくなんてありえないんですけどね。多分正当化に必死だったんでしょうね。
知り合いは危険だし普通に浮気したらまた写真撮られるかもと思うとかなり捜しにくかったですね。あまり伸びてるようには見えなくても朝とかちくちく刺さるようになってきたからいよいよ後がないと思ってホテトル呼ぶか風俗行くか。まあ、安いヘルスにしておこうと。まとまったお金は彼女に使おうと。
行く前は少し悩みましたね。このまま行こうか。自分で綺麗に剃り直してから行こうか。けつと玉には生えてるからそっちはどうしようか。迷ったんですがそのまま行くことにしました。やっぱり早く生え揃って欲しいと思いましたからね。
行って上着をハンガーにかけてスボンも汚れたり皺にならないように掛けてですよ、いよいよパンツを脱がされる瞬間ですよ。何も言ってませんからね、どう反応するのか興味があったんですよ。パンツを降ろして無毛というか一センチぐらいの毛を見て冷静に言われました。
「毛ジラミですか?」
冷静でしたね。さすがプロと思いましたね。一瞬何も言えなくて間があって慌てて「あのかかか彼女に剃られて。あの浮気がばれて。あの寝てるときに、あの」必死でした。「ここだけ。ほら。玉は生えてるし。ほら。ここも」自分でけつ開いてけつ毛見せる程必死でした。
たまにいるそうです。毛ジラミで剃った人。「このくらいの生え方のときは実際にやると刺さって痛いから彼女とは生えてからの方がいい」と教えてもらいました。
一ヶ月かかって「まあ少し短いけど不自然ではない」約五センチ程まで伸びましたね。面白かったけどもうあんなこと嫌ですよ。それにしても携帯で写真撮れるのは危険ですよ。そのままメールで送っちゃ駄目ですよ。
聞いた話だ。
※前後編を合わせました。
- 聞いた話・怒る女 03/05/18
聞いた話だ。
あのですね、気の強い女っていますよね。
すごく可愛くてスタイルもよくて黙って歩いていたら十人が十人振り返るぐらいのいい女。ただひとつの欠点は言い寄ってくる男を蹴散らす癖がついているのでやたら気が強いこと。それでもなんとか食いついて宥めて煽てて賺してひたすら機嫌をとって、まあ付き合っていました。こっちは付き合っていたつもりでしたが今考えると向こうはどうだったんでしょうね。キスもしなかったですから。別れたんですよ、ひと月で。そのひと月の間のことです。
最初はね、そんなに気が強いとは思わなかったし向こうもそんな素振りは見せなかったんですよ。しおらしく女らしく振舞っていたからもう夢中になりましたね。
しかしですね、あるとき待ち合わせ場所をどこにするかでもめたんですよ。お互い来い状態の喧嘩ですね。なんだかいつになく頑固なのでこっちが折れて向こうへ行ったんですね。
で、怒ってる。まだほとんど何も知らない状態だから宥めるわけですよ。「ごめんごめん。定期の関係であそこがよかったけど・・・そんなことどうでもいいや」「ねえほんとにごめん怒ってる?怒ってる?」「ねえ怒ってる?」ずっと硬い態度だったからつい言ってしまいました。「怒った顔すごく可愛いね」
それ以来ですよ。何かあればすぐに怒るようになりました。本性現しましたね。「怒るなよ」と言うと「起こった顔がセクシーって言ったでしょ」セクシーとまでは言ってませんが、そう言われるとそんな気もしてくるんですね。
仕方がないから段々怒りっぽくなってゆく彼女にひたすら可愛いだ綺麗だセクシーだ何だと言い続けました。
女王様になってしまいましたね。
それ以上付き合っていく自信がなくなってきたのでおそるおそる別れ話を切り出すと激怒ですよ。まあ覚悟はしていましたけど。マクドナルドの机がこっちに倒れてきましたね。抑えていると机の裏をがんがん蹴ってくるんですよ。もう可愛いだのセクシーだの言っていられないから「そういうところが嫌い」とはっきり言ってみました。
「怒ったところが好きって言ったじゃないの!」立ち上がって机踏まれました。360度回転するジェットコースターでバーが腹に押し連れられますよね、ぐーっと。あんなもんじゃないです。あれはゴム巻いてあるから痛くないです。鋭い机の縁が食い込むと痛いですよ。しかも腕で押さえようとしていたから腕の骨にぎしぎし当たってとても痛かったです。「少し怒ると可愛いけど怒りすぎたら怖いよ」やっとの思いでそう言うと「何よ!今まで嘘ついてたの!」
店員さんが来てくれました。
「他のお客様の迷惑となりますので」
俺に言うなよって思いましたよ。倒れかけた机と椅子にはさまって灰皿かぶって机に体重かけられながらどんな迷惑かけてるんだ俺は。
でも「すいません」って言って机を戻して床を拭き終わるのを待ってようやく口を開いた彼女が「私をからかってたわけ?」どう考えてもそれはこっちの台詞ですよ。「馬鹿にしてるんでしょ」それも。「つけあがっちゃって」それも。「お前といてぜんぜん楽しくなかった」それも。「いつかバチあたるよ」それも。「まともに付き合ったことあるの」それも。黙り通して彼女が疲れるのを待っていたら最後に一言「死ね」と言われました。
Mの人ならたまらないんでしょうね。真性の人なら。でも俺は無理でした。携帯変えました。彼女のグループとも遠くなりました。
やっぱりね、見た目じゃないですよ。ある程度見た目ですけどね。中身がね、ちゃんとしてないと。
俺の見る目があるとかないとか以前にですね、迂闊に「怒った顔が可愛い」とは言わないほうがいいですよ絶対。どんな女でも怒りっぽくなっちゃうかもしれないですから。
「怒った顔は可愛くないよ。笑った顔が可愛いよ」次からひたすらこれでいきます。いい勉強になりました。
聞いた話だ。勉強になった。
- 聞いた話・下着 03/07/13
聞いた話だ。
あのですね、彼女と一緒に買物に行ったんですよ。それも下着。どうでもいい買物ならこっちも気が抜けてますけど下着となるとやっぱり目の色変わりますよね。ね?ね?それでまあ、高級な所でなくて安い所ですけど行きました。支払いは結局こっち持ちですけどね、こっち持ちだからこそ好みの下着選びたくなりますよね。
それでまあ、色々見ながらああだこうだとひとしきりやりあってさすがにお互い疲れて「そろそろ真面目に選ぼうか」と。幸い好みの一致したやつがあったんでそれを選んでですね、「これ」「うん」と頷き合っている所に絶妙のタイミングで店員さんが来ましたね。今までずっと待機してたんでしょうね。サイズ確認の話になったからこっちはぶらぶらレジの方に行って待ってたんですよ。
少し遅いなとは思いました。でもしばらくして来ました。一致したそれは刺繍地の黒いブラとショーツのセットなんですけどね、それ持ってたからサイズがあったんだ、と。それでとことこ近付いてきて
「どっちがいい?」
は?よく見るとですね、同じデザインでもうひとつ色違いで青いのを持ってるんですよね。黒でいいんですけどね。黒がいいんですけどね。それで納得した筈なんですけどね。店員さんに見せられて迷いだしたらしいですね。こっちはもう疲れてますからね、黒の方がいいと頑張ってみたんですが「でもこっちのほうが可愛い」可愛さじゃなくて色気だ!と叫んだらすっきりしたんでしょうけどね。こっちはもう飽きてますからね、それほど高いものでもないし
「じゃ両方買お」
男ですよ。勇気ですよ。知恵ですよ。太っ腹ですよ。やけくそですよ。で、ここで大喜びしてくれると思うじゃないですか。違いましたね。
「ふたついいの?じゃもうひとつは別のにする」
わかりますよね?そういうわけではないと。ふたつのうち迷っているから両方買おう。それがどうして別の敗者復活戦が始まるんですか。サイズを知ってこちらをカモと認知した店員さんと一緒に別のを探しに行ってしまいました。もうね、いいんですよ。なんとなくこうなることはわかってた気がするんです。迷うことはあれはもう楽しみを通り越して本能なんでしょうね。そうでも思わないと。椅子があったんで座って待ちました。床踏み抜くぐらい貧乏揺すりしながら。しかし「優柔不断な人って嫌い」という女は自分のことが嫌いにならないんでしょうか。戻ってきたときに持っていたのはさっきの黒と別のデザインの青いやつでした。もう待ちくたびれてますからね。
「ん。決まった?サイズ合ってる?ん。じゃこれ下さい」
落ち着いてからですね、ホテルに行きました。暗黙の了解ですね。当然その下着を着けることになってます。しかし二組買ったからどちらで勝負にくるのか。風呂で着替えてます、さあ、黒か青か。黒でした。ひとしきり騒いでから「こっち来いよ」と言うと「待って。今度はあっち着けてみる」ファッションショーですよ。それで青も見てひとしきり騒いで「早くこっち来いよ」と言うと「どっちがいい?」さあ困りました。一緒に納得した黒か。彼女が選んだ青か。どちらを選ぶべきなのか。なんとなくどちらを選んでも不吉な予感がしませんか?それにね、ここまできたらもうね、下着なんかどうでもいいんですよね。正直な話、女のパンツになんか興味ないです。パンツの中に用事と目的があるんですよ。でもさすがに「どっちでもいい」とは言えないから、少し格好つけて
「好きな方選べよ。どうせ脱がすんだから」
彼女は「うぅぅ」と言って風呂場に戻りました。迷ってますね。やっと出てきた時には服を全部着てるじゃないですか。で、どっちなんだろうと思いながら脱がそうとするとですね、癖というか条件反射というか、「電気消して」ですよ。「いいよ別に」「よくない。消してよ」「いいってこのままで」「嫌だ!消すの!いい。自分で消すから」
・・・見えないんですけど。
聞いた話だ。
- 聞いた話・脈拍 03/08/20
聞いた話だ。
あのですね、フェチってありますよね。髪フェチとか足首フェチとか。知り合いに「へそフェチ」いましたけど、微妙ですよね。それでですね、僕のフェチ言うといつも馬鹿にされるんですけど。他にいない筈はないと思うんですけど。「脈拍フェチ」なんです。どうして反応に困るんですか。いつもですよ。どうしてですか。脈拍よくないですか?
そりゃカッコつけて言うと「ああ生きてるんだ」とかね、言おうと思えば言えますけどね、実際言いますけどね、男には言いませんけどね、男の脈なんて絶対取りたくないですけどね、実際目的はやっぱり「生きてるんだ」ではないです。
本音を言いますとですね、でも少しカッコつけさせて貰うとですね、「触れ合いたい」とか。まあ判りやすく言うと「触りたい」ですけどね。「脈取るの好き」とか「人によって違うよね」とか言ってさりげない強引さでいきますよね。まず手首から。脈って全身あちこちにありますよね。これに触って血が流れてるのを感じたら嬉しくないですか?いえ自分の脈では別に興奮しませんけど。薬指にも脈あるの知ってます?薬指だけじゃなくて指先は全部あるんですけどほとんど判らないんですよね。何故か薬指だけ微かに感じるんです。左手の第一関節中指側にあるんですよ。血管見えてませんか?見えてますよね。それです。そこ強めに押すと脈感じるんですよ。それが何か薬指だけ神秘の指とされている理由で、だから薬指に赤い糸だとか何とか言って。
喉判り易いですよね。手首とか薬指とか「判りにくいよね」とか言って喉の脈取るのに成功するとかなりこっちの脈速くなってますね。知ってますか顎にもあること。顎といってもかなり横のほうです。下の顎の骨の奥の終わってるところから少し骨に沿って戻るとですね、骨の凹んでるところあるでしょう。そこにあるんですよ。あるでしょ?ここはかなり有効です。なんたってここ押さえたら顔固定出来ますからね。あ、南野陽子のほくろの位置にも脈ありますよ。
他にもいろいろありまして(略) それでですね、例えば女の子と二人きりの状況で女の子が寝てしまったという状況がよくありますよね。ここです。脈拍フェチはここで役に立つんですよ。まあ本当に寝ているなら役には立たないんですが、それでも寝ているということを確認出来ますから。ポイントはですね、「寝ているフリをしているのかどうか」ですね。寝ているフリなら暗黙の了解で進軍可能ですよね。その判定に脈拍ですよ。
「寝たのー」とかいいながら髪の毛梳かすとかしながら喉の脈取りますね。それからですね、ここですよ、「本当に寝たのー」とか声を出しながら顔を耳に近づけていくんですよ。寝ているならなんともないですし、眠りかけなら「寝てるー」とか言いますけど、寝たフリの場合、何故か全く反応しませんね。しかしですね、寝たフリの場合ですね、全然反応しないのに声出しながら耳に近付いていくとですね、
脈拍急に速くなりますね。
これで寝たフリしていることが完全に判ります。それでも反応しない場合は問題ないですね。行きましょう鎌倉へ。寝たフリしていて顔を不自然に近づけても反応せずに脈拍が速くなっているのは向こうはきっと「来た来た来たー」とか思ってるわけですからね。罠?罠ですかねやっぱり。でもあれですよ、あとで揉めると面倒だし、仲いい子と気まずくなりたくないじゃないですか。それに脈拍ハネ上がる子は確実ですよ。その気ないなら喉の段階で刎ねられますね。その気なくても眠りかけに喉、眠りかけに喉って繰り返して粘り勝ちもたまにありますけど「しつっこい!」と本気で怒られる場合もありますね。結構ありますね、そういえば。でもこの寝たフリ判別法ぽろっと言ったら凄く怒りますから気をつけてください。他でも同じことしてるというのが建前で、寝たフリしていたことがバレたこと恥ずかしいのが本音かと思うんですが。別に恥ずかしくはないと思うんですけどね、実際「他でも云々」と言われると困りますしね、どうしようもないですからね、女に言っちゃ駄目ですよ。でも女の立場でも有効に使えると思うんですけどね。
それからへその下にも脈があるんですよ。へそフェチは僕じゃないですよ。へその下の脈。この脈不思議な脈で立っている時とか座っている時とかへそが前向いている時には出ないんです。異常に痩せててお腹に筋肉も贅肉もない人なら取れるかもしれませんが今までそういう子はいなかったですね。このへその下の脈はですね、仰向けになってへそが上向いている状態の時に取ることが出来るんですよ。うつ伏せの時たまに自分で感じるときもありますけど。それでですね、やっぱりこのへその下の脈取るのが目標ですね。これを取れるということは当然鎌倉を通過しているわけですが。
聞いた話だ。他に脈拍フェチはいないか?
- 聞いた話・小ネタ集 03/08/28
聞いた話、小ネタ集だ。
○「可愛いカップ集めるの趣味なんです」何気なくそう言ったのを聞き逃さずに、必死で探して贈ったのは、実に可愛い河童のぬいぐるみ。それがきっかけで河童に目覚めた彼女。
○軟派法
「突然ですが問題です。僕は今何をしてるでしょうか」
「ナンパ」
「ピンポーン。正解です。では次の問題。このナンパは成功するでしょうか」
「失敗です」
「ブー、不正解。ば」
「失敗です」
「罰ゲームとしてお茶奢ってよ」
「嫌です」
「じゃ俺が奢るから」
「嫌です」
※この直後後ろ歩きの男は放置自転車の海に後頭部から突っ込む。女は平然と歩き去る。○身に覚えがないわけではないが、突然喧嘩吹っ掛けられて訳の判らないまま応戦しているうちに「もう出てく」「は?」素早く身支度して出て行くので立場上仕方なく追いかけねばならない状況。歩きながらなだめすかしてもどうにもならず、「じゃ勝手にしろ!」と捨てて引き返す。こっちは着の身着のままサンダルでいたからてくてく歩いて帰り着くと部屋には鍵が掛かっている。彼女は全て計算づくで身支度したから当然財布も持っていたわけで。おそらくさっき通ったタクシーに乗って先に帰ってきたらしい。実に計画的に締め出されて、携帯も部屋の中、結局泣いたら許してくれました。
○米女優タルラ・バンクヘッド
「日記を付けるのは良い娘。悪い娘は日記付けてる暇なんてないのよ」○こういうメール。匿名希望さん。
> 私は岡山県女です。
> 「はよしねや」
> 言ってみたいものです。
言われたくない。○「地元の人?」「はい」「良かった。よく判らないから案内してくれま」「忙しいので」
「地元の人?」「いえ」「僕も地元じゃないので。よかったら一緒に周」「忙しいので」○「ほんとに、男ってどうして浮気するんですか?」
Because it is there.○洗面所に歯ブラシ二本。「これ何よ」「あ、それは・・・掃除用」「ふーん。じゃこれで便器掃除してあげる」ばれてますよね?
聞いた話、小ネタ集だ。
- 聞いた話・くだらないネタ 04/01/03
・純愛か? 「私、貴方の向う見ずで一直線なところに轢かれて」 ホラーだった。
・女は結婚するまで「はい」と言う。男は結婚してから「はい」と言う。
君は彼女の最後の「はい」を聞いてしまったわけだ。おめでとう。・「恋は百回、別れも百回。嬉しいような、悲しいような」
・「子供って作る暇あっても育てる暇はないよね」
・「それでも子宮は疼くのよ!」
・「ハンコ持ってないの。キスマークでいい?」実際に唇紋での個人識別は可能らしいね。
・ロシアより愛を止めて
・墓穴が泥沼。
「ハルカって誰」
「え。何で知ってんの。あ、それは友達飼ってる雌犬の名前やねん。出張するから面倒見てて頼まれてん。よく頼まれんねん。もう鍵持ってるし。食べ物やるやろ。散歩するやろ。風呂入れて全身洗たりとか。面白いねん。ウォッカ飲みよんねんで。甘いカクテルにしたったらやけどな。へろへろに酔ったところで悪戯とかするんよ・・・・・・。・・・浣腸ーっとか・・・・・・」
「さっきその雌犬から電話あったけど?」- 聞いた話・証拠 04/07/20
聞いた話だ。
嫉妬深い男と結婚した女がいた。束縛主義者を旦那にして共働きする苦労は並大抵のものではない。
ある日揃って出勤し、途中でそれぞれの勤め先に向かう。仕事を開始して直後、旦那は彼女の会社に連絡せねばならない事態が発生する。そこで言われる。「彼女今日は風邪で休んでいますよ」動揺した旦那は慌てて家に掛ける。確かに朝起きた時に体調悪いと言っていたが一緒に出勤したじゃないか。何故俺に黙って休むんだ。休むならそう言え。さっき会社に電話して赤恥かいたぞ。
「ごめん。行くつもりだったけど本当に調子悪いからやっぱり途中で帰ってきた。喉は痛いし頭はくらくらするし鼻水垂れっ放しだしで会社には連絡してそのまま寝てた。心配させたくなかったから電話しなかった」
夜になって帰宅した旦那は風邪引いて寝ている彼女が心配だ。大丈夫なのか。熱はあるのか。病院行ったか。ところでこのケーキを食べた跡は何だ?誰か来たのか。そうか。友達が見舞いに来てくれたのか。ああその子は会ったことがある。ケーキ買ってきてくれたのか。よかったな。ところでこの煙草の吸殻は何だ?そうか。あの子煙草吸うよな。風邪引いてるんだから煙草はちょっと遠慮してほしいくらい言えよお前も。ところでこの煙草あの子が吸っていたのと銘柄が違うようだが?そうか。たまたま売り切れていたのか。よくあるよな。自分の銘柄だけが売り切れているのはとても理不尽な気がするよな。ところでこの吸殻口紅が付いていないようだが?そうか。あの子素面だったのか。いつもばっちり化粧決めてるあの子が素面でケーキまで買ってきてくれたのか。いい友達持っててよかったな。ところでその塵紙の山は何だ?そうか。洟かんだ山か。風邪引いてるもんな。乾いてカピカピになってるな。体温図ってみろよ。何なら今から病院行こうか。ところでお前浮気していないか?
彼女は証言する。「風邪を引いて寝ていたら、好みのタバコが売り切れていた友達がケーキ抱えて見舞いに来てくれただけです。ティッシュの山は全部鼻水です。私はそこで『浮気でも何でも勝手に疑ってれば?あたし、お風呂入ってくるね』と言い、脱衣所に向かいました。服を脱いでいると何か物音がしたので覗かれているのかもしれないと思いました。浮気などしていないので、体には何の痕跡もありません。でもこっそり覗かれるのは嫌だったから見たいなら堂々と見せてやろうと考えて、扉を開けると物音は居間の方からでした。不審に思ったので行ってみると洟かんで丸めた塵紙を一枚一枚拡げて点検していました。何なら舐めてみれば?と言いたかったのですが、何も言わず私はそこで静かに離婚を決意しました」
ケーキの痕跡、見慣れない煙草、粘液が乾いてカピカピになっている塵紙の山、証言を裏付ける証拠として完璧に揃っている。ただ不幸なことにそれは浮気の状況証拠としても完璧に通用する。
そもそも嫉妬深い男の目を掠めて浮気する場合、このように初歩的な証拠を残しておく筈はないのであって、またケーキの残骸・煙草・避妊具・塵紙などは全て持ち帰るのが相手の家で不倫事に及ぶ場合の常識であり、それらの物品が投げ出されていた事実は後ろめたさが欠如していることを意味し、真実風邪を引いていたと認められる。
旦那の採るべき方策として、まず見舞い人に「今日はありがとう」と電話すべきであった。そこで「は?何が?」となれば遠慮なく責めてもよかろう。個人的には菱縄縛りを推奨する。結局この二人は離婚した。引金となってしまった見舞い人は相当焦ったらしいが、「お役に立てて何より」と言えたかどうか。
聞いた話だ。しかし上の状況でケーキではなくて薄く平たい菓子の包み屑が無数に散乱していたら失神するかもしれんな。
- 朝帰り 04/09/16
聞いた話だ。
あるところに古風な気質の父親を持つ一人っ子の女がいた。当然の如く門限は厳しく制定され、一寸した飲み会でもいよいよ盛り上がろうかといった最中に帰らねばならない不便であった。遊びの経験の少ない親であるから溺愛して大変に縛る。
携帯電話を武器にその包囲網を突破して無事に虫が付いたわけだが、当然父親には機密扱いであり、門限が必然的に清い交際を強制していた。しかしそこは燃え上がる恋心、ある日ついに覚悟を決めて、泊まる臥所を共にする方の覚悟は遥か以前より出来てはいたが、いざ帰らない覚悟を決めて、とりあえず母親に電話で心配する必要のないことを告げ、恙無く貫通式は執り行われた。
そして波瀾が待ち受けている家へと朝帰りするわけだ。普段の縛り具合からして悶着することは確実だ。いざとなったら家を飛び出して彼氏の家に転がり込んで、味噌汁とんとんもいいなあと妄想しつつ、それでもやはり重い足取りに勇気を奮い立たせて「もう大人なんだから」と何度も呪文の練習をしながらついに帰り着いてしまった。いっそのこと今日の用意も持って泊まればよかったと後悔し、扉を開けようかどうしようか迷う。出来の悪いドラマならここで玄関に父親が仁王立ちで怒鳴られる状況だ。まさかうちの親に限って。母に電話はしておいたし。
それでもやはりゆっくり把手を廻して数センチだけ開いて中を覗き込む。居た。右半身ぎりぎりしか見えないが、その様子から玄関に座り込んでいるようだ。他に入口はないし仕方がない。玄関で待ち受けているならゆっくり廻した把手も少しだけ開けた扉も全て見られているのだろう。ここで何も声がかからないということは、開けて顔を合わせた瞬間に何か言おうと待ち構えているに違いない。変態親父め。一旦閉め、静かに深呼吸してから、もう一度「もう大人なんだから」と呟き、決然と、しかし静かに扉を開けて対決の時だ。
やがて開け放った扉の中、玄関には父親が座り、腕を組んで・・・・・・眠っていた。
呆然としながら「寝てるしっ!」と心の中で突っ込み、気を取り直して泳ぐように横をすり抜け、母が掛けたらしき毛布を肩に纏っている姿に少し同情しながら、ともかく無事に自分の部屋に篭った。しかし緊張感の弛緩と諸々の事情により便所に行き、起きていた母と顔を合わせると「ふっ」と笑って横を向いた。玄関の置物についてどうすべきか声を潜めて話しながら、朝御飯のようなものを食べていると、やがて置物が戻ってきた。そこからは怒鳴る父親と呪文を繰り返す娘の三文芝居が進行し、拳骨を二発投下して悲しみの父は仕事へ出掛けた。拳骨の内訳は、一発目が父に黙ってこっそり外泊したこと、二発目がこっそり帰ってきたこと、「『起こせ馬鹿』は絶対に八つ当たりだ」とのことだが、手前もそう思う。
その後、家を出る・許さん・結婚する・許さん・子供作る・許さん・じゃ彼氏ぐらいならと、父の関心を取り戻したい母との共同戦線を無事に戦い抜いた。
対面させた彼氏とはとうに別れた今でもそいつを口実にして遊び廻る一丁前の女が誕生したことは、父親の心配が的中したことを物語っている。なお、家は出ないのかとの問いに対して「一人暮しで家を出たらパパが可哀想」とまで言い放つあたりは、過度な束縛からの急激な解放による反動かと思われる。
聞いた話だ。がんばれ父親。