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緊急着陸


「飛行機のシートベルトに意味があるのか?」

「気休めさ。自動車レースのシートベルトを見るがいい。あれでも危険なんだぜ」

緊急着陸 03/04/07・08・09・10

航空小説は歴とした一つのジャンルを成していて優れた作品が多数存在する。軍隊出身の元パイロットにしか描写出来ない白熱した場面など、惹き込まれずにはおれない。T・E・クルーズ、J・J・ナンス、リチャード・ハーマン・jr、中でもこの三人の作品は格段に面白い。

 小説の他にもノンフィクション、特に航空事故を扱ったものも多い。日本ではまだ少ないようだが、それでも柳田邦男、加藤寛一郎あたりが判りやすく代表的な作家であろう。無論海外では航空機が身近であるが為に事故も多く、必然的にそれを扱った作品が数多くある。不幸なことだがそれで何かを学ぶ事が出来るならば、その事故は無駄とは言えないことになる。

 「アンデスの聖餐」を御存知だろうか。ラグビーチームを乗せた小型旅客機がアンデス山中に墜落し、救助されるまでの間、食人が行われた出来事だ。新潮文庫でp・p・リード「生存者」がある。「生きてこそ」という映画にもなった。ノンフィクションであり、原作も映画も互いに干渉せず両方成功している珍しい事例だ。

 とりあえず食人についてここでは関係がない。事故に焦点を絞る。この時、早い内に亡くなった者は足の骨が折れていた。それは墜落の際の衝撃で椅子が床から外れてそのまま前へ投げ出された為に、自分の椅子とすぐ前の椅子の背に足が挟まれたからだ。古い飛行機であったことも災いしているだろうが、たとえ最新式の飛行機でも外れないとの保証はどこにもない。にも関わらず緊急着陸時の対ショック姿勢として指導されるのは「普通に腰を掛けたまま、頭の後ろで指を組んで、上半身を前に倒して膝と膝の間に頭を入れる」である。これはアンデスの事故が再現された時、足が折れるどころか背骨まで折れてしまうだろう。

 軍隊経験があり、非常事態のスペシャリストとして名高い作家、柘植久慶氏の著作の中に航空機の緊急着陸の際の最も被害が軽く済むであろう姿勢が書かれていて、その合理的な説明に感動した覚えがある。まず右を向いて腰掛けている絵。そして「椅子の座席部分を底辺ABとし、背もたれを左の縦の線分ACとする。右下から左に進んで左斜め上に進むとB−A−Cの「く」が仰向けになった状態だ。これが通常椅子を右から見た図だ。椅子の脚は関係がない。そして幅と高さをそのままに平行四辺形を想定する。膝の裏のB、よくガムの包み紙などが押し込められているA、背もたれの天辺Cの幅のままの空間に収まることで、椅子が外れても足が挟まれることはない。

 また別の事故の教訓から「足は前の座席に突っ張れ」という案もある。いずれもそんな格好をしていたなら乗務員に「正しい姿勢をして下さい」と注意されることは間違いない。しかし、実際に事故を目の当たりにし、そこから得た教訓を広めようとする人の話と、事故の経験がないまま訓練通りに遂行しようとする人の話とであれば、手前は前者を選ぶ。

 また、緊急着陸の際、「ポケットの中のペンなどを出せ」という注意、これは確かに体に刺さる可能性もあるから一理ありそうなものだが、出しても出さなくても死んでしまうような激しい事故なら意味はないし、軽い事故なら矢張り出す意味はない。「激しい着陸であったが、奇跡的に火が出ず大多数の命は助かったが、一部の人は衝撃によりポケットの中のペンが心臓に刺さって死亡した事例」があるかどうかは知らないが、そのような心配をするぐらいならきちんと整備をして欲しいと思う。

 「緊急着陸の際には靴を脱げ」この注意も時代遅れである。

 加藤寛一郎氏のものだったか、はっきり覚えていないが、何かの航空ノンフィクションに書かれていたのだが、昔は靴底がすり減るのを防ぐ為に靴の裏に鋲を打っていた。それが航空機の緊急事態の際、火花が散り、漏れた燃料に引火する恐れがあるという理由で「着陸の際靴は脱げ」と注意されていた。別の理由として緊急脱出で滑り降りる為のシートが破れる恐れがあるからとも言う。

 しかし、靴底の鋲で散る火花が引火する状態なら、それより先に別の理由で、例えば短線した機器の火花でとっくに吹っ飛んでいる筈だ。鋲の火花は靴を脱ぐ理由にはならない。脱出シートの疵はどうか。燃料不足でギムリーに着陸した事例のノンフィクション「高度41,000フィート 燃料ゼロ」新潮文庫の著者は忘れたが、緊急脱出シートで擦傷火傷を負った記述があったように思う。肉と鋲では比べるべくもないが、人を支え、不燃性であり、頑丈な繊維のシートが鋲によって引き裂かれる恐れが、あるか。航空会社は一度今現在の脱出シートで実験してもらいものだが、思うに例え鋲を打った靴であったとしても、突き刺さって体重がかかると、切り裂きながら滑り降りるより、刺さった鋲が外れないまま足首が有り得ない曲がり方をして引っ掛かりながら慣性の法則に従って転げ落ちると思うがどうか。

 実は靴を脱いではいけない最大の理由がある。

 緊急着陸が必ず障害物のない滑走路で行われるとは限らないのだ。山に墜落することがあるだろう。空港のはずれに墜落することもあるだろう。墜落の際、機体の破片が散らばった中を爆発から逃げなければならない時に、裸足で逃げろと指導する緊急時のマニュアルに従って逃げ遅れたらどうなるか。上のギムリーに不時着した場合は、燃料切れであったから爆発はしなかったが、歩けない人がいたという証言が収録されている。機内でもガラスなどの破片が散らばっていれば機外にさえ出ることが出来ないかも知れない。

 映画「ダイハード」で刑事に扮するブルース・ウィリス、あのですね、彼のことを「ウィルス」と呼ぶのは止めましょうね。スペルは「Bruce Willis」ですからね。いるんですよ、結構「ウィルス」と言う人が。名前のブルースに引っ張られるんでしょうかね。ウィルスならなじみがあって言い易いんですかね。止めて下さいね。ウィリスですよ。「ル」ではなく「リ」ウィリス。ブルース・ウィリス。「ダイハード」ビルの中でテロリスト集団と戦う映画でしたが、テロリストが電球を割って床にばら撒いて、そこに裸足のブルース・ウィリスが踏み込んでしまって苦しむシーンがありました。しかしその後、大きな破片を引き抜き普通に歩いて、しばらくすると走っておりました。あのですね。いくら超人的活躍であっても、いくらアドレナリンが出ていても、あれは無理です。割れたガラスを踏んだことはありますか。手前は何度もあります。割れたガラスは、尖っていて刺さりやすい。尖っている分薄くなっている。薄くなっているから折れやすい。割れたガラスを踏んだらですね、足の裏の肉の奥の方に破片が突き刺さったまま残ります。これが、二ミリ角のものでも真っ直ぐ歩けなくなる程痛い。体重が掛かるから当然ですね。体重の掛からない土踏まずや足指第一関節には刺さりませんね。体重掛からないから刺さりませんね。この細かい破片がたったひとつあるだけで真っ直ぐ歩けない程痛くて、しかしこの破片をほじくりだすには、極度の精神の集中と針と毛抜きで数分格闘しなければならない。実際にガラスを踏んだ経験があるならあのシーンは「無理無理」と冷めてしまいます。

 それでは本題に戻ろう。航空機の例えば窓ガラスは「たとえ割れても裸足でその上を歩いたところで怪我一つしません」という割れ方をするとは考えにくい。衝撃で鋭角のものが散乱した通路を裸足で歩いて機外へ出て、裸足で歩けるほど整備されていないであろう緊急着陸地点で、機体の破片が飛び散った中を、爆発から裸足で逃げなければならないと指導するマニュアルなど、誰が守るか。裸足であっても靴を履いていても一瞬で死ぬなら仕方がない。しかし、着陸に成功したが、「爆発の恐れがあるから一刻も早く脱出して下さい」と裸足の人間に言うのはこれ分裂してますよ。

 つまり、緊急着陸の際、靴を脱ぐのは危険極まりないことであって、靴を脱げという注意は「緊急着陸して後、尖った破片の中を裸足で逃げろ。もし火が出ていたら火の上をも裸足で行け。何があるかわからない墜落地点で爆発からは走って逃げろ、裸足で」と言っているわけである。

 海に墜落した時には確かに靴を脱いでいた方が良いかもしれない。しかし靴は水の中でも脱げるだろうと思わないか。

 靴を脱いで、着陸の後履こうと考えてみても衝撃で見失ってしまうことは確実だ。実は「靴を脱いではならない」と規則が改正されている航空先進国が世界的な趨勢であって、「緊急着陸のときは靴を脱げ」と指導される航空会社はそれだけで安全に気を廻していないことになる。妙なところで伝統に固執されては被害が大きくなるだけだ。靴は脱いではならない。もし緊急着陸する航空機に乗り合わせた場合、乗務員に何を言われても靴は脱いではならない。乗務員が折れないときは、一旦脱いで乗務員が着席して後にすぐ履くべきだ。乗務員の近くの席でそれが無理なら、次善策として靴を手に履いて頭の後ろで合わせるしかあるまい。それも無理と言われたら、諦めるしかあるまいね。

 「ポケットの中の固いものは出して下さい」ポケットの中の固いもので怪我する可能性があることは認めよう。しかしそれだけの衝撃となれば、ポケットの中のものが体に押し付けられる体勢とは、椅子が外れていると思わないかね。椅子が外れないならポケットの中のものは体に押し付けられることもなく、まあ尻ポケットに携帯電話を入れてあったなら体重で尻に割れた携帯電話が突き刺さる可能性もあるだろうが、座席はクッションであるし、そもそも尻は脂肪の塊であって、座ったら痛いだろうが、痛みを感じながらも走ることは出来る。尻の中央にある急所に何かが刺さる可能性は特殊な志向を持つ人を除いて有り得ないだろうし、緊急着陸の際に尻の中央に何か刺さっているような奴はまあ、死んでも死にきれないとは思うが、同情には値しない。

 書き流しているとすぐに脱線する。ポケットの中のもので怪我をする場合はシートベルトで圧迫されるか椅子が外れて圧迫されるかの可能性がある。確かに緊急着陸の際ポケットにペンなどを入れておくのは不安であるからこれは従った方がよい。しかし、椅子が外れる程の衝撃ならば、矢張り最初の「足」の問題に戻ってしまう。

 その前にシートベルトであるが、内臓破裂を避ける為にベルトと腹の間に枕を挟み込むことが何かのサバイバルマニュアルで紹介されていた。多く本を読むとタイトルや著者より内容だけを思い出すことが多い。似たジャンルの本を読んでいると特にその傾向は顕著である。

 さて、椅子が外れた場合に足を守る為にはどうすればよいか。搭乗後にビデオで紹介される対ショック姿勢の「深く腰掛けて頭の後ろで手を組んで頭は膝の間に挟む」こんな姿勢では座席が外れて前に投げ出されたら足も首も背骨も折れてしまう。足が挟まれないよう上げて前の座席の背に突っ張るのはどうなのだろうか。座席の膝の裏に当たる部分、自分のシートの一番前の端から先に体を出さないことが最も安全であり、背もたれの一番上に当たる高さから体を出さなければ更に良い。つまり座席の二辺を元に平行四辺形を想定してその中に体を収めることが、「安全とまでは言わないが最もまし」ということだ。

航空機の不時着の際、座席の上で体育座りの形になり、シートベルトと腹の間に枕を挟んで不燃性の毛布を頭からひっ被り中で頭の後ろで指を組んで脇に毛布を挟み込んでしっかり締める。座席の上端より上と前端からより前に体を出さず、小さくなる。勿論ペンなどはポケットから出しておくが靴は絶対に脱がない。後で脱ぐことは出来るが後で履くことはほぼ不可能であるからだ。

 少しでも生き延びる為の技術を駆使することは、自分だけ生き延びるというエゴだろうか。それても「みんなが間違っているから自分も間違えよう」が正しい姿だろうか。「規則で靴は脱がなければなりません」規則に従って命を落として後悔しないだろうか。この世は破片ともしかすると炎の中を裸足で駆け抜けることが出来る超人だらけなのだろうか。よろしい、手前は二ミリ角のガラスがわずか一個足の裏に食い込んでいるだけで真っ直ぐ歩けない虚弱体質であることを認めよう。踵に刺さったら踵を上げて、湧泉の辺りに刺さったら家鴨の様に、歩くだろう。不時着した航空機から一刻も早く遠ざかりたいとき、手前は靴を履いていたい。もしかすると焼けた航空機の破片を踏みつけてしまうかもしれない。たとえ靴を履いていても、役に立たない可能性だってある。それでも裸足は嫌だ。靴下が破片から守ってくれるだろうか。飛行機に乗るとき、靴の中に地下足袋を履いていけばいいのか?

 「靴を脱げと言うな」 「靴を脱げと言われても脱ぐな」 「足を降ろして緊急着陸させるな」 「絶対足は降ろすな」

 素人が何を言うかと誹られてもいい。プロを気取った規則一点張りの間抜けに従うつもりはない。事故から学んだ教訓を活かすことが出来ないなら従うつもりはない。生きるか死ぬかの瀬戸際で自分の命を大切にすることが非難されることなのだろうか。死んでしまえば全て終わりだ。何の役にも立ちはしない。しかし運良く着陸した時に生きていて、しかし足が挟まって折れていたり破片の中を裸足で歩けないまま逃げ遅れて爆発に巻き込まれるなど御免被る。

 信用する人はすればいい。信用出来なければ規則に従えばいい。足が挟まっても文句を言うなよ。裸足で走れず逃げ遅れたら文句など言うことも出来なくなるだろうね。山中に墜落して機外に這い出して山の中を裸足で逃げるなんて無理ですよ。虚弱体質ではない足の裏が靴底並に発達している皆様はどうぞ靴をお脱ぎ下さいませ。そういう人が靴を履く習慣があるかどうかは知りませんがね。

 機長と副機長は緊急着陸の際靴を脱ぐんですか?そんな暇はないから脱がないだけですか?余裕があったら靴を脱ぐんですか?

 着陸の衝撃の際、靴を脱いでいた場合と履いたままで何が違うのですか?

 破片が散乱した中、靴を脱いでいた場合と履いたままで何が違うのですか?

 裸足で逃げ遅れて死んだ人は「裸足だから走れなかった」とは言いませんよ。「足が折れて歩くことさえ出来なかった」とは言いませんよ。死んでしまったら何も言えませんよ。

※連続四篇を合わせました。




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